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鳥取地方裁判所 昭和42年(ワ)249号 判決

原告 懸樋平治

右訴訟代理人弁護士 田中節治

被告 森下一

右訴訟代理人弁護士 下田三子夫

主文

被告は原告に対し、金四〇万円およびこれに対する昭和四三年一月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言。

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決。

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、原告は訴外日の出砕石工業有限会社(以下、訴外会社という。)の代表取締役であったが、同会社は昭和三八年七月その設備資金のため訴外鳥取県信用保証協会(以下、保証協会という。)の保証のもとに訴外商工組合中央金庫(以下、商工中金という。)から、三〇〇万円を利息年九分四厘、償還方法は同年八月一六日以降毎月一六日に八万円宛を三七回にわたり分割償還し、残額四万円を昭和四一年九月一六日に支払う約定で借受け、その際、原告は訴外会社の右債務(以下、本件債務という。)につき個人として債権者の商工中金に対し連帯保証をした。

二、その後、昭和三八年一二月一〇日に原告は訴外会社の代表取締役の地位を退き、訴外片岡利治がその代表取締役に就任し、その営業一切を掌握した。

三、ついで昭和三九年四月二六日に、訴外会社は被告に対し同会社の債権債務を含む一切の営業権を譲渡し、被告はその権利義務を承継した。

四、しかして、被告は本件債務も訴外会社から引受承継し、これを債権者の商工中金に弁済すべき義務があるのに、その一部を支払ったのみで完済しないため、保証協会において商工中金に本件残債務の代位弁済をしたうえ原告に対し前記保証債務の履行を求めるに至ったので、原告は昭和四二年一一月七日同協会に対し、損害金等一部の減免を受けて四〇万円を支払い、その債務を消滅させた。

五、よって、原告は本件債務の右残債務の弁済により債権者に代位したので、被告に対しこれが弁済金四〇万円とこれに対する本件訴状が送達された翌日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(右に対する被告の認否と主張)

一、請求原因一、二の各事実は認める。

二、同三の事実は認めるが、しかし、訴外会社から承継した砕石事業は爾来被告が代表取締役である訴外有限会社森下一商店(以下、森下商店という。)において営業しているものである。

三、同四の事実は争う。

四、被告は訴外会社から営業を承継するに際し、本件債務の当時の残債務二六五万円の支払いを訴外会社に対して引受けたもので、その履行として被告は訴外会社に対し合計額面額が右残債務金二六五万円となる森下商店振出の約束手形二六通を交付し、該手形はすべて決済し支払済である。ところが、訴外会社の片岡代表取締役が右手形金二〇万円分の手形を債権者の商工中金に差入れていなかったため、その元利金等で原告主張のような四〇万円の残債務が残存していたものと思われるが、いずれにしても、被告は本件債務の支払いを原告に対し引受けたものではなく、また、債権者の商工中金はもとよりその債権者に保証をなした保証協会に対しても被告は本件債務について引受等の何らの債務負担契約をなしていないのであって、被告が本件債務を承継したのは訴外会社との間のいわゆる履行引受であるから、主たる債務者である訴外会社の保証人である原告が本件残債務を弁済しても、原告は被告に対し何ら請求し得べき権利を取得するといわれはなく、本訴請求は失当である。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、請求原因一ないし三の各事実は、当事者間に(被告において訴外会社から承継した砕石事業を爾来経営しているかどうかは別として)争いのないところ、≪証拠省略≫を総合すれば、保証協会は昭和四一年一二月一八日に本件債務の残元利金合計三四万八、八〇九円を商工中金に代位弁済してその債務を完済し、ついで原告は本件債務の連帯保証人として保証協会からその求償請求を受け、昭和四二年一一月七日に右元利金のほか保証料、損害金等を含め四〇万円を同協会に代位弁済してその保証債務を完済し、同債権証書類は現在原告の手中にあることが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると、原告は右代位弁済により債権者に代位して主債務者に対しその権利を行使し得るものといわねばならない。

二、そこで、原告は本件債務は訴外会社から被告に引受承継されたものと主張するのに対し、被告は右承継は訴外会社との間の単なる履行の引受であって、債権者や原告に対し何らその債務の負担を約していない旨抗争するので、この点につき検討するに、≪証拠省略≫を総合すれば、次のような事実が認められる。

(一)  被告は訴外会社から、同会社の解散を前提としてその営業全部を、本件債務等の負債や訴外会社代表取締役の片岡利治に対する株金代価二六〇万円を含め総計一、四〇〇万円を負担する約にて譲受け、その後その譲受けた営業の砕石事業は被告が代表取締役である森下商店において経営されていること。

(二)  右営業譲渡をなすに際し、訴外会社の片岡社長と被告の両者は訴外会社の創始者で本件債務の連帯保証人となっている前社長の原告に対し、その相談とともに了解を求め、その際、原告が担保を要求したところ、被告は本件債務を手形で決済してその支払義務を果す旨を約して原告の了解を得たこと。

(三)  右営業譲渡契約をした当時、訴外会社の片岡社長と被告の使用人である訴外渡本一郎とが同道して、債権者の商工中金鳥取支店に赴き、以後本件債務の残債を被告において負担する旨を告げ、その債務者名義の書換えを求めたが、債権者は右書換えに応じなかったこと。

(四)  そして、被告は本件債務支払いのため、訴外会社が従来月々一〇万円宛償還していたことから、同様の金額宛にて月賦償還することにして残債務金約二六五万円を森下商店振出の約束手形約二六通に分けて、これを債権者の商工中金に差入れるため一括して訴外会社に交付し、右各手形金はその各支払期日に被告により決済されていたが、右手形の一部を訴外会社の片岡社長が他に流用し商工中金に差入れていなかったため、その弁済期日後に被告は債権者の商工中金の係員からその滞納分の支払いの督促を受けていたこと。

(五)  訴外会社は昭和四〇年五月一五日に解散し、同月二五日にその解散登記を経由していること。

≪証拠判断省略≫

右認定事実によれば、被告は訴外会社から営業の譲渡を受けるに際し、原告に対し本件債務の弁済責任を負う旨を言明していた事実が認められるばかりか、およそ債務の引受契約は、債権者の同意または追認を条件に、債務者と引受人間における合意によってもなし得るものと解するところ、前認定のような事実関係、ことに被告は訴外会社の営業全部を譲受け、その際、債権者の商工中金に対し債務者名義の書換えを求め、本件債務のいわば免責的引受の意思を窺わせる態度を示し、同債権者はこれに応じなかったものの、その後被告に対し滞納分の督促をなし事実上同債務のいわば併存的引受を承認する態度を示していること等の事案からすれば、訴外会社と被告間の本件債務の承継契約は、同両者間のみの純然たる内部関係的ないわゆる履行引受にとどまらず、対外的に債権者の同意をも予定した債務の引受契約(かかる場合の債権者の利益を考慮し、前判示の事情と併わせ考えると、いわゆる併存的債務引受と推定し得る。)をなしたものと解するのが相当である。従って、被告が訴外会社に支弁したとする手形は、連帯債務者間における決済としてなされたか、または被告の代理人もしくは使者として交付したものというほかなく、これが支払いの事由をもって債権者に対抗できないことはもとより、その主張のように本件債務の承継を単なる履行引受と認めることはできず、この点の原告の主張は理由がある。

三、しかして、原告は右債権者に代位し、右債務の引受を追認して引受者である被告に本件債務の履行を請求し得る地位を取得したものとして、本件請求により右追認を明示し本件請求に及んでいるものと是認し得べく、結局、被告は原告に対し、前記代位弁済金四〇万円とこれに対する本件訴状が被告に送達された翌日であることが記録上明らかな昭和四三年一月九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものといわねばならない。

四、よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 土井仁臣)

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